組合立諏訪中央病院 丸茂広子

この度、2025年11月15日(土)、16日(日)に 「第18回 日本摂食嚥下障害看護研究会・総会」を、長野県JA長野県ビル・アクティーホールにて対面形式で開催させていただくことになりました。

テーマは 「食べることの原点回帰 ~その人らしい生活への架け橋~」 です。

基調講演は、東京科学大学 地域福祉口腔機能管理学分野教授 松尾浩一郎先生に「多職種連携による包括的オーラルマネジメントの実践」 という基調講演をお願いしました。

さて、私が摂食嚥下障害認定看護師を目指した原点は、終末期の患者さん方の「食べたい!」という思いに応えることができなかったそのやりきれない思いからでした。そして、認定なりたての頃は「その方のための食べるを支えたい」と考えていましたが、いつのまにか「安全に食べてもらうこと」にとらわれ、医療者にとっての安全重視の摂食嚥下ケアになっていることに気づかされました。一人一人それぞれの人生があり、その方の食べてきた歴史もさまざまです。いわゆるその方の生きざまが「食」にも現れ、「食べることへの思い」がそれぞれ違っていることを忘れかけていたのです。

認定看護師になったきっかけは各人各様で、それぞれの原点があると思います。
そこで、今回のパネルディスカッションは第一部では、「原点回帰と今の私」について、異なる環境で活動している認定看護師の方々に、自分の原点と今の活動における合致するところや相違点、躓いているところや思いも述べていただき、「摂食嚥下の個別性とは何か」、「認定の役割とは」について、議論を深めていきたいと考えています。

さらに、第二部では、「その人らしい生活をささえる 架け橋の実際」について多職種の方にも発表していただき、各職種や認定の役割と連携の困難なところなど討論を行いたいと思います。参加された方々も一緒に自分の原点とは、架け橋になっていることを振り返っていただき忌憚なきご意見をいただきたいと思っています。
研究会は認定看護師だけでなく、他の職種からもご参加・ご発表をいただき、その人らしく食べることについて大いに語る場となることを目指しています。

たくさんの方々のご参加を秋の信州でお待ちしております。

「食べる」ことの本質的な意義

食事は単なる栄養補給の手段ではなく、味覚や食感を楽しむこと、食事の場を通じたコミュニケーション、そして生活の質(QOL)を高める重要な要素です。しかし、摂食嚥下障害を持つ人々にとって、食べることは容易ではなく、むせやすさ、誤嚥(ごえん)、食事の制限など、さまざまな困難を伴います。食べることの原点に立ち返るならば、「安全で美味しく食べることを楽しむ」という視点が不可欠になります。

口から食べること」の重要性と支援

摂食嚥下障害のある方でも、可能な限り「口から食べる」ことを維持することは、身体的・精神的な健康に大きく関与します。医療やリハビリの現場では、嚥下訓練や食事形態の工夫(刻み食やゼリー食、とろみ調整など)が行われますが、単に食べやすさを追求するだけでなく、「食事の楽しさ」を感じられる工夫が求められます。例えば、見た目や香りを工夫し、食欲を刺激することで「食べたい」という意欲を高めることも、食べることの原点回帰の一環と言えるでしょう。

個々の「その人らしい食のあり方」を尊重する

食事は個人の好みや文化、ライフスタイルと深く結びついています。摂食嚥下障害のある方に対しても、「好きなものを、できるだけ安全に、美味しく食べる」という視点を大切にすることで、「その人らしい食のあり方」を支えることができます。単に栄養管理の観点だけでなく、心理的満足感を重視した支援が重要です。

摂食嚥下障害と「食べることの原点回帰」

摂食嚥下障害を持つ方にとっての「食べることの原点回帰」とは、「食の喜びを再確認し、その人にとって最適な形で食べることを可能にすること」と言えるでしょう。食事の本来の楽しみを損なわず、個々の状態に応じた工夫をすることで、食べることの本質に立ち返ることができます。そのためには、医療・介護・家族が一体となり、単なる栄養摂取を超えた「食べる喜び」を支えていくことで「その人らしい生活への架け橋」となるのではないでしょうか。